思い出のナポリタン。アツアツ、出来たての幸せを。
2024.10.1
実は私、喫茶店の娘でした。
なんだか、唐突ですいません(笑)。今回のレシピ『石焼ナポリタン』の話をしようと、ナポリタンの記憶を辿っていたら、懐かしい思い出が蘇ってきました。
喫茶店の娘だったのは、私が中学生の時、わずか3年ほどのことです。ペンキ屋をしていた父が、近所にできた素敵な喫茶店に感化されて、家の軒先で喫茶店を開こうと言い出したのがきっかけでした。ところが、肝心の父はといえば、しばらくして飽きてしまったのでしょう。いや、思い描いていた素敵な喫茶店のようにはいかず、お客さんも大して来ず、近所の高校生の溜まり場のようになってしまったのが気に入らなかったのか? ある時から、私が学校から帰るとフラッと店を出ていって、近所で手芸屋をしていた母の店で時間を潰すようになり…。店番を預かる私がお客さんが来るたびに父を呼び戻しに行くという毎日が続きました。しかも、そのたびに何故だかとても面倒臭そうな雰囲気を漂わせるので、私もだんだん呼びに行くのが嫌になってしまい、自然と私が喫茶店を手伝う日が増えていきました。
もっとも、今の時代のようにおしゃれなカフェメニューなど出せるはずもなく、せいぜいコーヒーを淹れたり、クリームソーダを作る程度。たまに「難しいな」と思う注文を受けると「今日は売り切れました」としれっとお断りするという、とんでもなくやる気のない喫茶店でした。
前置きが長くなりましたが、実はその時に唯一、出していた食事のメニューがナポリタンでした。若い世代にはピンとくるかわかりませんが、私の記憶が正しければ、当時はほとんどの喫茶店のメニューにナポリタンがあった気がします。実際、父がお店を開くにあたって、コーヒー豆の仕入れ業者の方に教えてもらった唯一のメニューがナポリタンで、私はそれを見ようみまねで作っていました。いや、作ると言っても、適当な大きさに切っておいた玉ねぎ、ピーマン、マッシュルーム、ベーコンと、あらかじめ茹でて、一人分ずつグラムを測ってラップに包んで置いてあるパスタを塩胡椒とケチャップで味付けするだけ。今になって思えば、あっているのかも謎な、工夫のないナポリタンでしたが、クレームを受けたことはなかったと考えればなんとか食べられる味になっていたんだと思います(笑)。それが料理に興味を持ったきっかけになった…と言えば、今の私の仕事柄、またこのコラム的にもどうにかまとまりそうな気がしますが、そんな美談など一切なく、ナポリタンをきっかけに私が作れるようになったのは焼きそばくらい。麺の種類と、最後の味付けがケチャップからソースに変わったくらいの伸び代を感じられない中学生でした。
ですが、結婚を機に料理を覚え、寮母になってたくさんの子供たちに作った料理を食べてもらう幸せを知ってからは、私のナポリタンにも磨きがかかりました。いや、ベースはさほど変わっていないですが、味にコクが出るように少しコンソメを入れるようになったり、バターや生クリームを足してみたり。時にベーコンやウインナーの代わりにサバ缶を使ってみたりと、その時々で冷蔵庫の中身と相談しながら、大いにアレンジを楽しむようになりました。これは1つに、ナポリタンがハンバーグやステーキの脇で、ひっそり彩りを与えてくれているサイドメニュー的な扱いから、メインメニューとして楽しむ料理になったことも理由かも知れません。サイドメニューとして添えるだけなら、さほど具材が必要ではなかったそれも、メインメニューに昇格させたことでいろんな野菜や具材とのセッションを考えるようになり、どんどんアレンジが広がっていきました。
今回ご紹介した石焼ナポリタンも、ある意味、ナポリタンのアレンジメニューです。料理において「口の中が焼けるほどアツアツ、出来たてを食べてもらう!」というのは私が大切にしていることの1つですが、石焼ナポリタンはまさに最上級のアツアツメニュー。石焼鍋にフォンデュチーズと牛乳を入れて滑らかになるまで混ぜて火にかけ、沸々してきたところで別のフライパンで作っておいたナポリタンをぶち込み、ぐつぐつ、ジュージュー音がするくらいの状態でテーブルに置けば! おしゃべりに夢中だった選手たちの目をあっという間に釘づけに。次の瞬間には口の中を火傷するくらいの勢いで「あっちー」「うっめー」と言いながらがっついてくれます。
仮にご家庭に石焼鍋やスキレットがない場合はフライパンでも代用可能です。後者の場合、ややダイナミックさに欠けるのは否めませんが、みんなで1つの鍋をつつくように、ナポリタンに手を伸ばすのもアリかも。ただし、いずれにせよ、チーズフォンデュが下に敷かれている分、どうしても鍋にくっつきやすくなるため、食後の食器洗いはすごく大変です(笑)。しばらく水に浸けておいてから洗っても、金たわしでゴリゴリと擦り落とさなければいけないという労力が必要となります。つまり、作る側も食前だけではなく、食後にもかなり疲弊してしまうメニューのため、子供たちがアツアツの石焼ナポリタンを食べている幸せそうな表情、口をウハウハさせてアツアツに挑んでいる姿、目の輝きを是非とも目に焼きつけ、パワーを充電しておくことをお勧めします。
ー村野明子さんの思ひでレシピ
詳しいレシピはこちら▼
レシピ詳細 | ナポリタンチーズフォンデュ | Rokko Butter Co.,Ltd.
<柴田麗/管理栄養士からのアドバイス>
●炭水化物はエネルギー源に!
一般的なパスタの主となる栄養素は炭水化物(糖質)です。炭水化物(糖質)はエネルギー源として使われるため、アスリートは試合前に食べることも多くあります。その場合、具材は脂質が少ないトマトソースベースやペペロンチーノ、和風、オリーブオイルとチーズのみなどのシンプルな物を選んで食べるようにしましょう。
●吸収力が高いチーズでカルシウムの補給を。
チーズはヨーグルトと同様、乳製品に分類されます。牛や山羊、羊の乳が主原料となっているため、カルシウム、マグネシウムなどのミネラル類やたんぱく質、脂質が主栄養素です。チーズのカルシウムは小魚や野菜に含まれるカルシウムと比較すると吸収率が高いため効率のよい補給源です。