スポーツ料理研究家・村野明子さんの思ひでごはん~印象には残らずとも、定期的に作る一品。~

2024.04.1

 今春から私が運営する会社で横浜F・マリノスの寮の仕事を請け負うことになりました。

私自身は今、他の仕事で海外に来ていますが、離れていても寮のスタートにあたって決めなくちゃいけないことが色々とあり、メインで担当してもらうスタッフと随時、意見を交わしながら、ベースづくりを進めています。

 思えば、03年に初めて北海道コンサドーレ札幌の寮母になった時は右も左もわからず、恥ずかしながらアスリートにはどんな食事がいいのかという知識も全くない状態でした。冷蔵庫にオレンジジュースと牛乳しか入っていないのでは、開けた時にワクワクしないだろうなと思い、いちごミルクやコーヒー牛乳といった甘いドリンクを入れちゃっていたのも苦い思い出です。

確か当時は10〜15人くらいの選手たちの食事を、朝昼晩と一人で用意していましたが、慣れていないが故の手際の悪さもあってすべてが1日がかりでした。朝ご飯を作って練習に送り出し、買い出しに行って昼食を作り、片付けたらすぐに夜ご飯を作り始めて18時過ぎには選手たちが帰ってきて…。いや、初めたばかりの頃は、連絡もないまま、待てど暮らせど何人かの選手がこない! みたいなこともあって「食事が口に合わなかったのかなぁ」なんて不安になったりもしました。

 また、選手が食べる量の予測を誤り、おかずを作り過ぎてしまって、ご近所のお年寄りの方たちに配って食べていただいた、なんてことも。北海道という土地柄にも助けられ、当時はなぜか選手以上に、近所のネットワークがかなり強固で、近くに住むおじいちゃん、おばあちゃんたちにはお漬物の作り方を教えてもらったり、野菜をお裾分けしてもらうなど良くしていただいていたのですが、私が半分涙目で強引に持ち込んだ料理も「あらまぁ、いつも嬉しいわ」と喜んでもらえて、すごく励みになっていました。

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 当時はまだ上の子が7歳、下の子が4歳だったことから子育てとの両立も大変で、あまりにヘビーすぎる日々に心が折れそうになりつつ、一方で場所も確保してもらったし、お皿もたくさん買っちゃったし、と自分に言い聞かせては「やっぱり頑張ろう!」と思い直す、みたいなことも何度もありました。私自身もまだ30歳そこそこの年齢で、選手とのコミュニケーションの取り方や距離の取り方が今ひとつ掴めず、一つのことを伝えるだけでもすごく気を遣ってグッタリしていたのを覚えています。

 

 なのに、あれから20年近い時間が過ぎた今は「また寮の仕事が始まるぞ!」となっても気持ち的には驚くほど落ち着いています。先にも書いた通り、チームとの打ち合わせを含めて、やるべき仕事はいろいろとありますが、なぜかドンとこい! と余裕をかましている自分が末恐ろしいです(笑)。私もすっかり歳を重ねて図々しくなったのか、以前のように選手とのコミュニケーションで悩むこともなくなり…。もちろん、今でも選手との距離感は大事にしているとはいえ熟練のおばちゃんパワーなのか、わからないことは平気で尋ねられるとか、むしろ「この人、馴れ馴れしいな」と引かれそうなほどグイグイと相手の懐に飛び込めるようになったことも、肩の力を抜いて仕事に向かえている理由かもしれません。と言いつつ、単純に今は寮生の数が少ないから滞りなく進めている気もするので、この先も気を抜かずに頑張ります(笑)。

 

 そんな寮の朝ごはんによく登場するのが、今回の炒り豆腐。ポカポカ陽気が嬉しい日々なので春野菜やあさりも入れてみました。レシピの野菜以外にも、お好みでいろんな春野菜を細かく切って彩り豊かに仕上げれば、お皿があっという間に春めいてきます。炒り豆腐は美味しさも栄養もとても理想的だし、薄味で胃もたれせず消化がいいのでアスリートにはもってこいの一品。背徳感なく食べられるのも嬉しいです。私は朝食に出すことが多いですが、仮に昼食や夕食の一品にするのなら、食べる前にお好みで醤油や白だし、柚子胡椒をプラスして、やや味にインパクトを加えるのもいいでしょう。

…と、万能な炒り豆腐なのに、なぜか食べる側の記憶には残りにくいというのが残念なところ。これまでも「アッコさん、カレーを食べたい」「ハンバーグを作って!」「お鍋にしようよ」と言われることはあっても、炒り豆腐をリクエストされたことは一度もありません。好きか嫌いかを考える以前に、あまりに味が優しくてインパクトに欠けるのが理由だと見ています。なので、どうしても印象づけたい方は、春野菜をふんだんに使って、視覚で勝負してみてください(笑)。

 

作り方は簡単。兎にも角にもホロホロにするのがポイントなので、火加減を気にしたり、卵の半熟具合を気にかけたりしなくてもいいのも嬉しいです。電子レンジで加熱した木綿豆腐とお野菜たちをお鍋に入れて、よそ見をしながらでもぐるぐると手を回しておけばできあがります。冷めても美味しくいただけるので、たくさん作って『作り置き』もできますし、翌日はサラダの上に乗せてプチトマトを散らせれば、見た目も可愛く様変わりして翌日も、違う料理か? と錯覚を起こしてくれるはずです。

唯一、出す時にひと手間かけて欲しいのは、少し深めの小鉢、またはカップなどに入れてあげること。ホロホロしている分、お皿に載せると食べづらいため、慌ただしい朝は特に食べるのを面倒がられてしまわぬように、スプーンで掬いやすい器に入れれば、残さずにガガガっと口の中に掻き込んでくれるでしょう。

ー村野明子さんの思ひでレシピ

あさりや春野菜の炒り豆腐

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塩味のあるチーズと豆腐やあさりを合わせることでマイルドなチーズの味わいに。 手軽に日頃の食事の中でタンパク質とカルシウム摂取!
詳しいレシピはこちら▼
レシピ詳細 | あさりや春野菜のチーズ炒り豆腐 | Rokko Butter Co.,Ltd. (qbb.co.jp)

<柴田麗/管理栄養士からのアドバイス>

●具材によって様々な栄養を摂れる献立
炒り豆腐のメインの材料となる木綿豆腐の主な栄養素はたんぱく質です。絹豆腐と比べるとカルシウムも多く含まれています。他に春野菜の菜の花を加えるとβカロテンやビタミンCを、キノコ類を合わせるとビタミンDを摂ることができます。1品で様々な栄養素を少しずつとれる工夫ができる献立です。

●生活スタイルに合わせて効率よく栄養摂取を。
時間栄養学の観点からトマトを朝食に食べることで、抗酸化作用を持つトマトのリコピンの吸収が高まることがわかっています。また、魚に含まれる不飽和脂肪酸のDHAやEPAも夕食より朝食の方が吸収がいいという研究結果もあります。自身の生活スタイルに合わせて効率よく栄養摂取ができる食品を選べるといいですね。

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